盗癖だろうか。。。

認知症専門棟の私の担当のご利用者に、オーさん と言う方がある。
このオーさんは、他の施設から「長期入所過ぎる」と言う理由で、当施設に移動してこられた方です。

前の施設からの申し送りに「衣類に対する勘違いが多く、他者の衣類を自己の物と思い込むために、トラブルが多い」とあった。

最初はさ、バーチャルリアリティかと思ってた。認知症の一つの症状と言うか、現象に、バーチャルリアリティってありますよね?仮想現実。勿論、異次元の空想だし、早い話が「嘘」なんだけど、脳の神経の伝達の病なのでしょう?
つまり、ご本人にとっては、全く完全な真実なんだ。

そう思ってた。オーさんについても。

どうもそんな簡単な事じゃないような気がする。

オーさんは、盛んに他のご利用者の衣服だのなんだのを、自分の居室に持ち込んでいます。大胆にも着て歩いているし、何ら隠す様子が無い。
これは、バーチャルリアリティだろうか と思い、「とにかく、ご本人の居室の私物はたんすに仕舞って、鍵を徹底的に掛ける。ご本人から何か要求があった時は、職員が取り出し、すぐ又鍵を掛ける」と言うような事を徹底的にやろうと思っていた。
ただ今、実行中。

ところが。

鍵がしょっちゅう開いている。
オーさんが、ターゲットにしている「洋服の趣味が似ていて、全然盗られた事に気づかない、隣の席に座っていて、お部屋も同じご利用者」の衣服、その他を、徹底的に溜め込んでる。
オーさんのたんすの鍵が開いているだけでなく、ターゲットの方の鍵も開いている。
幾らでも、盗り放題。

決定的におかしいと思ったのは、ターゲットの方の衣服などには、全部きちんと記名がして在ります。記名も、名札をきちんと目立つところに縫い付けてある。滅多な事じゃ取れません。
にも関わらず。
ターゲットさんから盗んだ衣服の名札は、全部綺麗に毟り取られている。
毟り取った形跡、痕跡さえ、残っていない。
それで、しゃーしゃーと、自分が着ている訳です。
あとは、ベッドの下に「隠してある」

良心に恥じるところがなく、完全に信じているのであれば、名札を毟り取るとか、たんすが開いていない時は、ベッドの下に隠すとか、ターゲットの方のたんすを開かせるように、ターゲットの方に働きかけるから、職員が、ターゲットさんからの要求だと思って、つい、鍵を開けて、瞬間の隙が出来るとか、起こり得ない筈だよな。

起こってるんだ。しかも、毎日大量に。

その隙を狙って、上手に、ターゲットさんのたんすから、間違いなく盗んでいる。

うーん。。。。。。。。。。。。。。。。。。

 

勿論、オーさんは、認知に障害があります。その証拠に、盗んだものを元に戻しても、騒がない。
「又、盗ればいい」と言う事か、「気づかない」と言う事か、それは、私はオーさんじゃ無いからわからないよ。

でも、すごく複雑な事なんだろうなと言うのは、分かる。

これが、知的さんだったら、私のアプローチすべき事は想像がつきます。認知症さんには、どうやったら良いか、真剣に困ってる。考えてる。

多分、だけど、人間には誰でも邪悪な部分があるよね?何でその邪悪な欲望を満たさないかと言うと、「警察に怒られる」からだ。「逮捕される」から。「世間体が悪い」からだ。
これを、社会の常識と言うよね?

認知に障害が出てくると、ある意味、開放されるんじゃ無いだろうか?と想像したりするよ。
オーさんが、人生の中で、万引きの常習犯だったとは思えない。犯罪歴まで調べた事は無いけどね。
でも、オーさんの邪悪な秘めた欲望の中に「人のものを盗みたい」と言う欲望が在ったんじゃないか?
欲望がある事は、責められる事じゃない。
実行に移さない理性と常識があるから、人間は社会生活が出来る。

私が今まで支援してきたご利用者の方は、まさに、この社会生活の常識を獲得できないまま、大人になってしまって、持て余されて、施設に隔離されたような人たちだった。

だから、こういう事を想像するのかもしれないけど。

一つの方法として、「徹底的に施錠する」(何を言われても職員がだまされない)事。

「ご本人の持ち物は、全部写真撮影してアルバム化して、そのアルバムに載っていないものは、『これは、オーさんの持ち物アルバムに載っていませんから、職員が間違えましたね。申し訳ありませんが、本当の持ち主の方に返しますので、返して下さい』と、徹底的にやる。」事。

これで、オーさんは不穏になり、荒れるはずだから、「このアルバムに載っていないものは、人様のものですから、それを持っているのは、犯罪ですよ」と徹底的にやる事。

をちょっと考えてる。

これで終っては、いじめ、虐待だから、他人のものを私物化することがなくなったら、又は、素直に返したら、褒めちぎる と言う事も同時にやる。

これはね。
行動障害の人に有効な方法です。
全くの認知症オンリーの人にやっても効果はない。

他のご利用者の方にも、人のものと自分のものの区別が付かない人はいるけれど、認知症オンリーの方は、策を弄さない。

 

でもさ。
これ、大攻撃食らうと思う。
職員にも、上司にも、ご家族にも。

ご家族は、まあ、これを「盗癖」と考えるとして、一生施設に閉じ込める事で、本人さんも、自由に過ごせて(施設の中なら、社会問題にはならないので、例え盗癖があっても、ある程度好きなだけ盗む事が出来ます。)ご家族が、迷惑しない様に と言う事で、施設入所をさせている。

これは、無理の無いことだ と言うのも、良く分かる。まして、将来のある自分の子供と言う事ではなくて、親でしょう?肉親だけの家族なら良いが、子供が婚姻して孫がいたりすれば、婚姻相手にとっては、オーさんは姑だよ。

姑の将来の為に、地域生活の為に、徹底的に行動強制をしようとする義理の子供(オーさんの子供のお連れ合)はいないでしょう?

現実に、オーさんの家族は、肉親は娘さんです。家庭の実権を握るお連れ合い(世間的な言葉で言えば、ご主人)が、ほとほと迷惑して、施設に放り込みたいと思うのは、当たり前だし、家庭の実権を握る「お父さん」に、妻たる娘さんが逆らえない、でも、心配 と言うのもとっても分かる。

と言って、行動矯正を徹底的にやって、娘さんが嬉しいかと言うと、嬉しくないでしょう。盗癖のあるお母さんが、家に戻ってきては困るが、施設の中で、ある程度盗癖を満足させて、幸せならば、それでいいじゃないか とも思うと思う。

悩みます。
本当に。
どうしようか。

たんすに鍵を掛ける
勘違い(つまり盗んだもの)は、本来の持ち主に返す(オーさんが見ていないところで)と言うのは、世間的な答えだと思うし、それ以上のアプローチが出来るか、意味があるか、考えると頭が痛くなる。

これを、毎日のルーチーンの業務の中でこなして、実現していく事。

出来るようになりたい。