盗癖なんだろうか?の続き

あちこちで、色々な人に話を聞くとね。色々な話が出るわけです。納得できる話も、はぁ?と思うような話もある。

オーさんが、他人の衣類をあたかも自分の持ち物かの様に平然と着ている と言う事があってね。これは、バーチャルリアリティだろうか と思っていたら、オーさんの行動が?だった と書いた。数日前。

どうも「隠すような」行動がある。
これ、認知に障害が出て、バーチャルリアリティの現実として(つまり、オーさんにとっては、真実。実際の現実では嘘、もしくは、間違い ね)オーさんが他人の衣服を盗んで着ていると言うのとは、少々違う???と思ったのが始まり。

だってさ。
他人の持ち物に限って、名札を毟り取ったり、そそのかして、鍵の掛かっているたんすを開けさせたり、自分のたんすの鍵を開けさせて、盗んだものを下の方に隠したり って行動は、「やましい」からするんじゃないか?と思ったんだよね。

「やましい」と思っているなら、ある程度行動障害改善のアプローチも出来るんじゃないか?って思って、まずは徹底的にオーさんの私物の把握をすることをして(写真に撮ってリスト化するとか)、徹底的に、盗めない状況を造ってみようと思った。

その上で、今度は、オーさんにアプローチがしてみたいんだ。私はね。「これは、オーさんのお洋服のリストです。これに載っていないものは、職員が間違えて、オーさんのところに配ってしまったものなので、大変失礼な事をしました。返してください」とやる。

素直に返すかどうか。

素直に返す事が分かったら、今度は、「これは、オーさんのお洋服ではありません。このリストに載っていないからです。ですから、人のものを盗んでくるのは、いけないことですから、お返し下さい」とやる。

これで私が求めている事は、オーさんに罪悪感を持って、改心してもらう事じゃない。
オーさんは認知に障害がある事は間違いない。
だから、認知に障害があって、かつ、行動障害として盗癖がある。

認知に障害が進んでしまっていて、行動アプローチが無駄な人もある。そういう人の場合には、ターゲット(食べ物とかね。中には目に付くものは何でも飲んだり食べたりする人もあって、それが洗剤だろうが、消毒液だろうが、ゴキブリ駆除剤だろうが、掴んだら、口に入れて飲み込むまで絶対に離さないという人もあります。制止される事へのプライドしか残っていないんだろうと思う。)を遠ざけるしかないだろうと思う。

オーさんは、そこまで行ってないんだ。
日常的な生活を、ぱっと見ただけでは、認知に障害があるとは思えない。良く行動を見ていると、話を聞いていると、別にプロじゃなくても、認知に障害があるんじゃないか?と言う事が察せられると言う程度の方です。

オーさんの地域生活、家庭生活を阻んでいる問題行動 は、まさに、盗癖だ。
実に様々な困ったことが起きたのだろうと想像が付く。
ほとほと困った家族が、「クチが達者で、悪い事をしても妙な理屈で抗弁して、自分が正しいと主張して止まないボケた親」を持て余し、どこでもいいから、放り込んでおけるところ を探して、転々とさせているのも、家族なら仕方のないことで、理解できる。

だからさ。

私ら、プロなんだから、「オーさんが盗んだら、オーさんに気づかれないように、そっと元に戻しておく。オーさんの自尊心を傷つけないように、オーさんには、その事は言わない。オーさんは、盗んだ事で満足するのか、盗んだ物を元に戻しても、ぎゃーぎゃーは言わないから、それで、実害はない」だけじゃねぇ?

前の施設ではそうやっていたようです。
勿論いろんなことをやったんでしょう。無理だったんでしょう。簡単に行動障害が改善したら、プロは要らない。

「オーさんの持ち物にはお名前が書いてあります。これは、オーさんのお名前が書いてないので、オーさんのものではありません。」と説明すると、様々な屁理屈で、対抗する。納得しない。不穏になる。

つまり、オーさんは、「これにはオーさんの名前が書いてないので、オーさんが、間違えている。オーさんが盗んだのです。」と言われている様に感じると(実際、盗んだんだけどね)拒絶する。

だったら、別のアプローチをしてみようという訳ですわ。
「このリストに載っているものがオーさんの物ですね。」と言う納得をしてくれる方法を考える。写真に撮るのは、その一つです。
「これに載っていないものは、職員が間違えたので、オーさんにご迷惑を掛けました。」と謝るんだ。職員が。プロなんだから、心から申し訳ないという様子で、毎回丁重に謝罪する。

これで、もし、オーさんが、自尊心を満足させて、素直に返すなら、一つ前進だ。

「リストに載っていないものは、オーさんの物ではない」と言う事を定着させられたとして、その次は、「載ってないものを着ているのは、間違っていますよ。勘違いしたんですネ。誰でもあることですから、私が戻しておきましょう。」とやってみる。

これが通用するかどうか。

そんな事を、私は考えていて、上司に相談したんだけど、上司は看護士なんだよ。全然わからん。まして、行動障害改善アプローチなんか出来ない。と言うよりも、理解できない。知らない。

「介護さん同士で話し合ってなんとか」と言われたんで、あちこち根回ししたんだ。

「写真に撮って、オーさんの物を職員が把握する。リストに載ってないものは、オーさんの物ではないので、とにかく引き上げる。」「徹底的に鍵を掛ける」と言う事は、みなさん、「分かりやすいから、良いと思う。」と言ってくれる。

行動障害アプローチについては、異論続出だね。

面白い事を言って、大反対している職員さんがいて、その職員さんは、今、オーさんのターゲットになっていて、盗まれ放題になっている利用者の担当さんです。彼は、大反対でした。
「写真なんかに撮って見せても、絶対に納得しないし、部屋を替えれば良いと思う。」と言う意見でした。ターゲットになっている人と別の部屋にすれば、盗まない と言うわけです。

いや。ターゲットは次々変わるから、永遠に部屋換えしてなくちゃいけない。そうなると、それはそれで、オーさんに困った影響が出る。環境がころころ変わるような事は、認知症の人にとって、絶対に悪い影響しか出ない。

そういうニュアンスの事をちょっと言ったら、「個室にすれば良いと思います。」と言う。
「個室にすれば、人との接触は減るし、他人の部屋に入ったら分かるし、職員が知らない部屋の中で盗り放題と言う事は起こらない」と言う。

まあ、それも、一つのアプローチでしょうね。
でも、それは、「もう絶対に二度と社会復帰、家庭生活が出来ない程認知に障害が進んでしまった人」へのアプローチだろうと、私は思う。
オーさんは、まだそこまでは行っていない。
家庭生活、社会生活への復帰の道を考えるなら、今しかない。

盗んだら、そっと戻すでは、認知の障害は進む事はあっても、止まらない と私は思ってる。だから、オーさんには、そういうアプローチはまだしたくない。

考えたら、そのターゲットになっている利用者さんの担当の職員さんは、特別養護老人ホームばっかりやってきた人なんだ。そういう価値観の違いもあるよね。施設内で穏やかに生活できればいい と言う考え方。

 

良い、悪い、じゃないよ。
色々なアプローチがあるから。
オーさんに「盗みはいけません。名前の書いてないものは、あなたが盗んだものです。」と説明しても、行動障害は止まらない事は、既に判明している。だったら、別の方向から、「オーさんが食指が動くものが幾らその辺に転がっていても、盗まない。盗んだとしても、ある一定の方向付けのアプローチをすれば、素直に返す」と言う行動矯正が必要なんだ。

「良心に訴える」とか、「懇々と説明する」と言うのは認知に障害があるんだから、無駄ですよ。簡単なスイッチ(例えば、それがリストを見る と言う事)を入れれば、良い行動(素直に返す、盗まない)が出現する と言う方法を構築すればいいんだ。

それは、写真に写してリスト化する事だけじゃないと思う。たまたま、今は、それを軸に考えているけれど、全然別の何か が在るかもしれないし、それを考えて、何とか「盗癖」と言う行動障害を制止するのが、担当者としての私の役目だし、施設の意味だしさ。

で、その方法は、「職員なら、誰でも出来る簡単な方法」でなくちゃ駄目。簡単と言うのは、「こっちが謝る態度」とか、「徹底的に威圧する」とか、そういうこっち側での統一が、簡単に分かるような方法だと言う事ね。

それが把握できれば、家庭に返せる。家庭でも、同じ方法で「悪い行動が出現した」時に、対応してもらえば、問題行動は起きないんだから。

「靴をちゃんとはいてください」と言っても全然出来ない人に、「足を踏んでください」と言うと、実質的に靴にかかとがちゃんと入って靴が履ける と言う事がある。
これが、行動障害アプローチなの。

「しっかり立って。」と言う代わりに「膝を伸ばして」と言うと立位が保てる人も在ります。

「体を前の方向に傾けてください」が通じなくても、「お辞儀をしてください」なら、背中を椅子の背もたれから離す事が出来る人もいる。

そういう事の積み重ねが支援であって、アプローチであって、施設に入所してもらう意味じゃないか?

そんな事を考えながら、今、悪戦苦闘中です。