思い出すこともある

今日は三助でした。今の若い方、ご存知でしょうか?三助?昔の銭湯の番頭さんですネ。背中流してくれるんです。

入浴介助の日に、利用者さんから「今日は何の仕事?」等と聞かれたり、入浴介助中におしゃべりしたりする時は、「今日は、私は三助です」と言うと、大抵通じます。少々認知症が在る人でも通じますね。

それで三助をやっていたのですが、今日は、ある認知症の進んでしまった方が入浴の日でした。
普通、他人に衣服を脱がされると言うのは、恐怖感を伴うものでしょう?認知に障害がなくて、身体的に難しいところがある方には、「こうして、あーして」と言われるままに、お手伝いをすれば良い訳ですが、認知に障害があると、我々三助が暴漢となってしまいます。

これは、お手洗いも同じ。

で、その方をお風呂に入れる時には一苦労なんですよ。いつも。衣服を脱いでもらうのに、まず大暴れ。当たり前だけど。それから、お湯を掛けて洗うのに、一苦労。水をぶっ掛けられた様に感じるようです。勿論ぶっ掛けてなんかいませんです。お風呂に入っているのだ、とか、この人は(私の事ですよ)手伝いの三助だ とか思える神経が繋がっていないから、偉い事になるのです。

それがね。
今日は、彼の調子(あ。男性ですが。その方は)が良くて、私の調子とぴたりと合ったんだろうね。
全然暴れなくて、素直に衣服を脱いでくれまして、そのまま素直にお風呂場へ。

困るのは、この方、ご家庭での記憶があるのでしょう。入ったとなると、いきなり風呂桶に直行。で、出てこない。出てもらうには、体を抱えないと駄目ですから(足が立たないんじゃなくて、認知が無いから、出る意味が分からない。)またまた大暴れ。

危ないし。

今日は、うまくとにかく椅子に座ってもらうことが出来まして、少しずつお湯を掛けて、後はドンドン頭から洗ってね。それも、「目をつぶってください。」しか私は言わないんだけど。
頭を洗って、顔を洗って、タオルで拭いて、「背中流すよ」と言ったら、なんと、「お願いします」だって!ちょっとびっくり!

ところが、背中を椅子の背もたれから離すと言う事が認知できないんだな。あれこれやってるうちに、ふと背中が浮いたので、「○○さん!うまい、凄い!」等ととにかく褒めちぎっていたら、なんだかタオルを持って洗い出したんですよ。結構上手い。

勿論、遠い記憶の中の行動を繰り返しているだけなので、厳密には洗えていませんが、それでも、結構洗えている。

こういう時って嬉しいですよね。

それで考えて、機械浴槽に入ってもらいました。足の立つ方だし、徘徊が凄くて、でも転倒する危険が少ない人なので、名簿上は一般浴。
一般浴で良いのだけれど、ほら。出てこないでしょう?出てこないのはいいんだけど、出てもらうのに認知してもらえないので、折角気持ちよくお風呂に入れたのに、最後に大暴れになっちゃうかも知れない。

機械浴槽って、風呂場用の車椅子に座ってもらって、箱の中に入ってもらってからドアを閉めて、後からお湯を張るタイプです。昔のてんぷらリフトではありません。

と言う事は。。。。。
出ない と言う事が無い訳よ。それから、周囲を囲まれているので、髭をそったり、耳掃除をしたりしても、暴れまわる事が無い。
その方、髭剃り、耳掃除事体はお好きなんです。うっとりとしておられる。
そうなんだけど、かみそりを持って行ったり、綿棒を持って行ったりすると、それが大好きな髭剃りだとか、耳掃除だとかを理解できない為に、大暴れの時が多い。

今日はそーっと彼がうっとりとお風呂に浸かっている時に、「髭剃るよー」とシェービングクリームをつけてみた。静かです。「上向いて」と言うと、上を向いてくれる。すんなり剃れました。
今度は耳掃除。
ちょっと抵抗したんだけど、用心して綿棒にしたら(綿棒、汚れが取れないから、私自身はケアに使うのは嫌いだけど、そんな事は言っていられないので)なんとかなった。

大笑いしたのは、片方の耳が終って、「反対ねー」と言うと、聞こえたのかどうか、理解したのかどうか分かりませんけど、反対の耳を傾けてくれる。

そのまま、浴用車椅子を機械浴槽から引き出して「立って良いですよー」で、素直に風呂場から出て行きました。

こんな事は滅多にありません。奇跡といっても良いかも知れないくらい稀です。
でも、人間って、ちゃんと記憶しているんだよね。
凄いよね。